私の祖母



ー ひなびた色どり/一乗寺狸谷 ー

上村松篁(うえむら しょうこう)
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山道を下って詩仙堂へもどる。
門のそばに物さびた一軒の茶店がある。
ねずみ色のノレンに白くハトの紋を染め抜いてあるのが、大変古風でゆかしい。
器量のよいおばさんが店番をしていた。
店をのぞいて見ると、だんごやようかん、まんじゅう、つけ物などが並んでいる。
「山端(やまばな)の丁稚羊羹(でっちようかん)の双鳩堂の出店どす」
おばさんはいった。古い創業の老舗らしく見えた。
「ここは一日、十六日、二十八日の不動さんの日は店が出ますのどす」
狭い山ぎわに露店が並ぶ光景は、いかにもひなびた趣であろう。
私は店中のものを一そろえおみやげに買って帰ることにした。
緑、茶色の鳩だんご、白い麦饅頭、竹の皮の丁稚羊羹、ウリの塩づけ、そして柴づけの紫。
この色どりを見るだけで洛北の風趣がにじみ出ているように思われた。
    (美大教授、日本画家)


<京都新聞 昭和35年1月7日 第一面>


上村松篁(1902-2001)うえむら・しょうこう
1958年 芸術選奨文部大臣賞
1966年 日本芸術院賞
1981年 日本芸術院会員
1983年 文化功労者
1984年 文化勲章

日本画の巨匠 に「器量のよい」と書かれた 母方の祖母。


上記の茶店は祖母の後、叔母が営んでいましたが 2021に閉めました。
双鳩堂本店はこの地図で。



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